お口の健康が全身の健康に影響

お口の健康は全身の健康にも影響することがわかってきた
歯を保っている人は認知症のほか要介護の状態になるリスクが低い

“口腔(こうくう)の健康”は口だけにとどまりません。口の健康が全身の健康に影響していることが、近年わかってきました。高齢期になっても歯が多く残っている人や、歯が少なくても義歯などを入れている人は、認知症の発症や要介護状態になる危険性が低いということが発表されました。
歯を失い、入れ歯を使用していない人は、歯が20本以上残っている人や歯がほとんどなくても入れ歯により噛み合わせが回復している人と比較して、認知症の発症リスクが最大1.9倍になるという報告があります。この理由として考えられる仮説が、しっかりと噛むことができないと、記憶や空間認知能力など脳の機能が低下する可能性があるということです。認知症についてはまだ解明されていないことも多いため、噛むことですべてを解決できるわけではありませんが、そのリスクを下げるひとつの可能性が示されたのです。

歯数・義歯使用と認知症発症との関係

歯を失い、義歯を使用していない場合、認知症発症リスクが最大1.9倍に

65歳以上の健常者を対象として、歯と義歯の状況を質問紙調査し、その後の4年間、認知症の認定状況を追跡(n=4,425名)した。

年齢、疾患の有無や生活習慣等に関わらず(年齢、所得、BMI、治療中疾患、飲酒、運動、物忘れの自覚の有無を調査済み)歯がほとんど無く義歯を使用していない人は、20本以上歯を有する人と比較して、認知症発生のリスクが高くなることが示された。

出典:yamamoto et al., Psychosomatic Medicine,2012

そして、歯が19本以下で入れ歯を使用していない人は、20本以上保有している人と比較して、転倒するリスクが2.5倍に高まるという研究結果のほか、保有する歯が19本以下の人は、20本以上の人と比較して1.2倍要介護状態になりやすいという結果も発表されています。つまり要介護状態になる危険性も歯が多い人ほど少ないことがいえます。
これらの結果から、しっかりと若い時からお口の健康管理を行うことが、高齢期の健康の向上にもつながるということが考えられます。

20歳以上の者を1とした場合のリスク

歯数・義歯使用有無と転倒との関係
歯を喪失し、義歯未使用の場合、転倒のリスクが2.5倍に

65歳以上の健常者で、過去1年間に転倒経験のない人を対象として、歯と義歯の状況を質問紙調査し、その3年後、過去1年間に2回以上の転倒の有無を調査(n=1.763人)した。

年齢、要介護認定の有無などに関わらず(性、年齢、追跡期間中の要介護認定、抑うつ、主観的健康感、教育歴を調査済み)歯が19歯以下で義歯を使用していない人は、20本以上歯を有する人と比較して、転倒のリスクが高くなることが示された。

出典:yamamoto et al.,BMJ Open. 2:e001262,2012
歯数、咀嚼能力と要介護認定との関係

歯が19歯以下では20歯以上と比較し要介護になりやすい

  リスク 95%信頼区間
歯数 20歯以上 1.00  
19歯以下 1.21 1.06-1.40
咀嚼能力 なんでも噛める 1.00  
ほとんど噛める 1.17 0.88-1.56
あまり噛めない 1.47 0.89-2.44
調整:性、年齢、BMI、主観的健康感、治療中疾患の有無、喫煙、飲酒、運動、所得

65歳以上の健常者を対象として、歯と義歯の状況を質問紙調査し、その後4年間、要介護認定の状況を追跡(n=4,425人)した。

出典:Aida et al., Journal of American Geriatric Society,60(2):338-348,2012

20~30代から気を付けたい生活習慣病。その原因のひとつが歯周病

むし歯とともに歯科の二大疾患と呼ばれる歯周病。その歯周病がお口に止まらず、全身に影響を与え、さまざまな病気や問題の原因のひとつとなっていることがわかってきました。
ここでは若い頃から気をつけたい糖尿病、肥満、近年注目されている早産と低体重児出産、重篤な病気である心筋梗塞、脳梗塞と歯周病の関係についてご紹介します。

歯周病とからだの病気

歯周病は、歯を失う最大の要因。歯の喪失は、全身の健康を脅かしかねません。
さらに、歯周病そのものも多くの病気に関わっていることがわかってきています。

狭心症・心筋梗塞

心臓の筋肉に栄養を送る冠動脈が狭くなったり、詰まることで発症する心臓病。動脈硬化が進行しておこる。

心内膜炎

心臓の弁に歯周病菌が感染しておこることがある、心臓弁膜症などの病気を持つ人は要注意。

糖尿病

血糖値が高い状態が続くことで発症。悪化するとさまざまな合併症をもたらずことも。歯周病もその1つ。

胎児の低体重・早産

妊娠中は、つわりもありお口のケアをおろそかにしがち。歯周病が妊娠・出産に影響するというデータも。

動脈硬化

高血圧や脂質異常により血管が厚く硬くなった状態。虚血性の心臓病や脳卒中の原因となる。

バージャー病

手足の指先が青紫色になり、強い痛みをおこす。ひどくなると壊死することも。喫煙者に多い。

認知症

何らかの原因で脳が萎縮するアルツハイマー型認知症と、脳卒中の後遺症としておこる脳血管性認知症がある。

がん

歯周病菌による炎症が続くことで細胞に異常をきたし、発がんにつながるという説もある。

肺炎

歯周病菌が気管に入ると肺炎をおこすことも。寝たきりの人など飲み込む力が低下している場合は要注意。

肥満

さまざまな生活習慣病をひきおこす肥満。内臓脂肪型肥満がメタボの原因となることで特に問題視される。

骨粗しょう症

骨密度が低くなり、骨がもろくなる病気。高齢者が寝たきりとなる大きな原因のひとつ。女性に多い。

出典:公益財団法人 8020推進財団「からだの健康は歯と歯ぐきから」

●歯周病と糖尿病
歯周病が全身疾患に悪影響をもたらす代表的な例が、日本人に多い「2型糖尿病(以下、糖尿病)」です。糖尿病は血糖を代謝するインスリンと呼ばれるホルモンが少ない、もしくは働きが悪いため、血糖が代謝されないことに起因します。現在ではライフスタイルの欧米化により、若い人や子どもにも増加しています。
近年、歯周病の悪化が糖尿病を悪化させることがわかってきました。歯周病が悪化すると歯周病菌が血管内に侵入して全身を駆け巡ります。それによって全身に炎症が起こると、その状態を抑えるためにサイトカインと呼ばれる伝達物質が産生されます。しかしこのサイトカインが増えすぎるとインスリンの働きを妨げ、結果として糖尿病をさらに悪化させてしまうのです。
逆に考えると歯周病の治療によって糖尿病が改善すると考えることができ、実際に快方したというケースが数多く報告されています。このため日本糖尿病学会は糖尿病治療ガイドラインにおいて、歯周病の治療を推奨しています。

●歯周病と肥満
体脂肪が必要以上に蓄えられてしまった「肥満」は糖尿病の前段階といわれています。肥満と判定された人は歯周病にかかっている割合が高く、歯周病が肥満の原因のひとつである可能性が指摘されています。

●歯周病と早産・低体重児出産
妊婦が歯周病にかかると、早産や低体重児出産のリスクが高まることがわかってきました。そのリスクは約7倍に上り、タバコやアルコール、高齢出産などを大きくしのいでいます。そのメカニズムはまだ十分に解明されていませんが、歯周病の炎症により分泌される物質が、子宮の収縮にかかわるため、それが胎盤に何らかの影響を与えるためと考えられています。
またその一方、妊婦は女性ホルモンの影響を受け、歯周病にかかりやすいという問題もあります。そのため妊婦のお口の健康管理はとても重要になります。妊娠がわかった段階で歯科健診を受けるほか、吐き気を防ぐために香料が強い歯磨き剤を避ける、洗口液を活用するといった工夫が有効になります。

●歯周病と心筋梗塞・脳梗塞
心筋梗塞と脳梗塞は心臓や脳の血管が詰まる病気で、動脈硬化が原因となります。そして近年、この動脈硬化が起きている部分から歯周病菌が見つかったという報告が数多くなされています。このため歯周病菌が血管に入り込み、全身に運ばれているなかで、心臓や脳の血管に障害を起こしていると考えられるようになりました。
歯周病と心筋梗塞、脳梗塞の関係について詳細は明らかにされていませんが、国内の専門家の間では歯周病が心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めるという認識がほぼ共通の見方になりつつあります。今後のさらなる研究の進展が期待されます。

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