歯科医療はアスリートもサポート

歯科医療はアスリートもサポート

昔から力を入れるときには“歯を食いしばる”と言われてきましたが、上下の歯の噛みあわせの力(咬合力(こうごうりょく))が運動能力に大きな影響を与えることがわかってきました。中学2年生を対象に咬合力と運動能力の関係を調べた結果、咬合力の高いグループは、低いグループに比べて、運動能力が全般的に高いことがわかりました。
そして選手に求められる咬合力は、スポーツによって異なることもわかってきました。フィギュアスケートとスピードスケートの選手の咬合力を比べた結果、咬合力はフィギュアの選手の方が強く、奥歯の接触面積もスピードスケートの選手の2倍以上になっていることがわかりました。歯を噛みしめると顎の関節が固定されて体軸が安定します。このときに特に重要になるのが奥歯の状態なのです。
そして咬合力が強く求められるスポーツには、柔道、レスリング、ラグビー、重量挙げ、体操、射撃、ボートなど、「力」と「体のバランス」が重視される競技が挙げられます。

歯の咬合力と運動能力の関係
(調査対象:中学2年生・187名)
スポーツテスト 男子 女子
咬合力が
低い群
咬合力が
高い群
咬合力が
低い群
咬合力が
高い群
握力 34kg 36kg 27kg 29kg
上体そらし 28cm 29cm 23cm 25cm
長座体前屈 42cm 44cm 53cm 56cm
反復横とび 53回 53回 46回 47回
1500m走 6分21秒 6分12秒 4分27秒 4分26秒
50m走 8秒1 7秒6 8秒5 8秒4
立ち幅跳び 2m11cm 2m24cm 1m72cm 1m88cm
ハンドボール投げ 22.4m 23.5m 12m 13.6m

出典:深井智子、安井利一:中学生の咬合状態と健康感および運動能力の関連性について
『明海歯科医学 Vol.36』:37-41, 2007

スケート選手の咬合と特性

同じスケート競技でもジャンプなどが多いフィギュアとスピードスケートでは、歯の接触面積、咬合力に大きな開きがあることがわかる。

出典:『日本歯科医学会誌 Vol.35』:7-32, 2016

日本オリンピック委員会は、1987(昭和62)年から強化指定選手の定期健診に歯科を組み入れるようになりました。そして大会前から歯科医療関係者によるサポートも行われています。むし歯がある選手は短期間で治療し、顎関節症の既往がある選手には、スプリント(マウスピース)と呼ばれる装置を入れて負担を減らします。また前述の咬合力と運動機能の研究を選手のパフォーマンス向上に役立てる取り組みも試みられています。
本年度開催されたラグビーワールドカップでは、日本代表のデンタルサポートを行いました。日本ラグビーフットボール協会には歯科委員会があり、サポートする歯科医療関係者が全国にいます。また2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会の選手村でも、歯科医療関係者がサポートすることが決まっており、歯科医師と歯科衛生士が延べ600人、歯科技工士300人がボランティアを務めることになっています。歯科医療関係者はメダルの獲得もサポートしているのです。